扉の向こうに、薄暗い廊下が伸びていた。

 まるで一点透視図法の見本のような、無人の視界。

 灰の濃淡で陰影の描かれた壁は、影絵の世界めいている。

 ――――その場所に異様な人影があった。



 それは兎のぬいぐるみだった。

 まるでフランケンシュタインのように、黒い縫い目の目立つ頭部。

 性質の悪い冗談のような、二足歩行の脚。

 奇形じみたぬいぐるみが、巨大な斧を手にして走っている。

 断頭台の刃先のような、鋭利な金属。

 重苦しい凶器は、首切り役人を連想させた。

 ―――カンッカンッと。

 その足元で、斧の刃先が音を起てていた。



 兎が跳ねる。

 兎が跳ねる。

 兎が跳ねる。



 次第に、兎の背中は遠ざかりつつあった。

 そして廊下の終点へと近づいた瞬間―――。



Copyright ZIGZAG. All rights reserved.
Please do not use any images on your site without permission.