空白になった頭の中で、雨の音が鳴っている。

  真っ白な天井を眺めていると、傍らに誰かの気配がした。

  ぼんやりと視線を動かし、その姿を捉える。

  青白い蛍光灯の下で、弟が僕を見下ろしていた。

  安堵のあまり、呼吸すら忘れる。

  まだ僕の側にいてくれる。まだ僕を見てくれる。

  その事がこんなにも嬉しかった。

  ――――もう僕には弟だけだ。

  人体模型のように無機質な視線。

  ゆっくりと弟の手が、僕に向かって伸ばされた。

  温度の低い指先が、包帯で覆われた左手首に触れる。

  力の入らない指先で、すがるように握り返した。

 「これで二人だけだね、兄さん」

  声が響くと、雨の気配が一層濃くなった。

  変わらず硬質な声からは、同情や優しさは感じられない。

  けれど、雨音に似たその声が、何より僕を安堵させた。

  握り締めた手に精一杯の力を込める。

  すべてをゆだねるように目を閉じた。

 「おやすみ、いい夢を」



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